盛岡地方裁判所 昭和34年(わ)33号 判決 1962年10月22日
被告人 原田敬三
昭九・五・二五生 北上郵便局事務員
主文
被告人を懲役二月に処する。
ただし、本裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
(被告人の地位および事件発生までのいきさつ)
被告人は、昭和二八年九月以降岩手県北上市所在の北上郵便局庶務会計課会計係事務員として勤務しているものであつて、本件当時すなわち昭和三四年一一月二五日には全逓信労働組合(以下全逓と略称する)岩手地区本部執行委員の地位にあつたものである。
ところで郵政省は、昭和三三年春全逓本部の執行委員長、副執行委員長、書記長のいわゆる三役を含む役員を解雇し、同年夏新潟において開催された全逓全国大会においてこれら三役が再選された後は、昭和三四年末公共企業体等労働委員会々長のあつせんにより全逓側交渉委員中右被解雇者の臨時代理者がおかれるまで、全逓との団体交渉(以下団交と略称する)を拒否する態度をとつていたが、全逓岩手地区本部は、全逓中央本部の昭和三四年一一月一六日付指令第一号にもとづく秋季年末闘争の一環として、同年一一月二〇日頃、盛岡郵便局長半田東一に対し、「団交否認の態度を改め、仲裁々定二五〇円の即時支給、年末手当二ヶ月分の支給、年末首繁忙手当の制度化確立、郵便および委託能対費の即時支給、盛岡統括局傘下四六九名の非常勤職員を直ちに定員化すること、薪炭手当を完全に支給すること、冬期屋外作業労働条件を改善せよ等の要求事項を解決するため、速かに仙台郵政局長宛上申するとともに、誠意ある行動をもつてこれが解決に努力すること。右要求に対し同月二五日までに回答されたい。」旨書面および口頭をもつて申入れた。
これに対し右半田局長は郵政省のとる団交拒否の方針に従い、かつまた右要求事項は同局長の権限外事項に属することがらであるとの判断に立つて右申入れを承諾せず、前記岩手地区本部執行委員長等に対し団交には応じられない旨の態度を表明し、二五日当日は、早朝盛岡郵便局の中津川に面する通用門の両側にそれぞれ「当局職員以外の者無断入局を禁ずる」旨の貼紙をはらせ、局長室にある三ヶ所のドアに施錠し、窓を全部閉鎖した。
一方当日朝盛岡郵便局郵便物発着場付近に一〇〇名近くの全逓組合員が集合し、同岩手地区本部執行委員長の挨拶、同書記長の経過報告等がなされ、次いで被告人を先頭として、「団交再開」等と呼唱しながら盛岡郵便局内のデモが行われたが、その間に、同地区本部三役等は同局次長室において次長八旗治助に対し、半田局長への面会を要求していたところ、デモを終えた被告人も他の組合員とともに右次長室へ入つた。
(罪となるべき事実)
被告人は、右次長室において、その東側隣りにある局長室のドアに錠が施されていることを知り、同日午前一〇時頃、次長室の窓から庇に出て局長室の窓辺にいたり、半田局長が同室内にあつて組合員との面会を拒んでいることを了知しつゝ、その承諾のないまゝ、窓から右局長の看守にかゝる局長室内に故なく侵入したものである。
(証拠)(略)
(被告人および弁護人等の主張に対する判断)
被告人および弁護人等の事実上ならびに法律上の主張は多岐にわたるが、そのうち主要な法律的問題点について、とくに判断を示すこととする。
一、松崎弁護人は、労働者の組合活動のための企業施設ないし庁舎の利用は、憲法第二八条が労働者の団結権を保障している以上、その団結権の維持に必要な範囲において当然許容さるべきものであり、その範囲は結局当該活動の目的に照らし、施設、庁舎の利用を禁止することによつて受ける組合側の不利益と組合活動によつて施設、庁舎の管理上受ける不利益とを比較衡量して、具体的に決すべきものであるところ、本件は、全逓岩手地区本部組合員のなした正当な団交要求に対し、盛岡郵便局長がその許さるべき範囲を超え、局長室に施錠してまで団交を拒絶するといういわば違法な庁舎管理権の発動に対し、その違法な態度の反省を求め、団交を要求して局長室に入つた事案であつて、被告人の所為は住居侵入罪の犯罪構成要件に該当しない旨主張するので、まずこの点について考えるに、なるほど盛岡郵便局庁舎は公の目的のために供用さるべき公物であるから、例えば一般人による庁内見学等の庁舎の利用については、庁舎の維持や本来の執務に支障のない限り無制限にその利用を禁止すべきではなく、このことは法律上認められる労働者の基本的権利の維持に必要な範囲における庁舎の利用についてもこれを例外とする理由はないものと解せられるが、同時にその利用の方法、手段についても社会通念上相当と認められる限度の制約を受くべきこともまた当然といわなければならない。
ところで本件は、庁内の広場とか廊下とかあるいは組合事務所とかへの立入りが訴追されているのではなく、庁舎の管理者である盛岡郵便局長が明らかに入室を拒否している局長室へ窓から立入るという異常な方法による行為が問題となつているのであつて、かゝる行為を目して当然許容さるべき庁舎の利用行為に過ぎないものとみることはとうていできす、被告人の該行為が少くとも外観上広い意味での住居侵入罪(本件はそのうちの建造物侵入罪)の構成要件に該当することは疑いない。
なお、本件は、当時団交拒否の正当性をめぐつて全逓側と郵政省側とに意見の対立があり、全逓組合員が団交を拒否する盛岡郵便局長に対し自己の信念にもとづき強硬に面談を求めた事情を背景として起つた事案であつて、この点についての当裁判所の見解は後に触れるが、かゝる事件の背景的事情をいかに評価するかによつて、被告人の本件行為が建造物侵入罪の構成要件に該当するかどうかを左右することは相当でなく、かかる事情は侵入の行為が「故なく」なされたものであるかどうかの問題すなわち行為の違法性を判断するにあたつて考慮さるべき事項といわなければならない。
二、次に松崎弁護人は、被告人の本件行為は違法性を欠く正当な行為であるとし、その理由として
(1) 公共企業体等労働関係法(以下公労法と略称する)第四条第三項は憲法第二八条、第九八条第二項、国際労働機関(以下ILOと略称する)第九八号条約(団結権および団体交渉権についての原則の適用に関する条約約)およびILO第八七号条約(結社の自由および団結権の保護に関する条約)に違反する規定であつて、全逓の組織が右公労法第四条第三項に違反することを理由として団交を拒否した盛岡郵便局長の行為は違法であり、不当労働行為である。
(2) なおまた、全逓岩手地区本部は決議機関として地区大会、地区委員会を、執行機関として地区執行委員会を有し、独自の予算をもつ労働組合であつて、同組合には郵政省が解雇したと称する職員は含まれていないのであるから、全逓本部役員に被解雇者がなつていることを理由として、同岩手地区本部に対し公労法第四条第三項を根拠に団交を拒否することは許されず、この点においても本件の団交拒否は理由のないものである。
(3) 以上のとおり盛岡郵便局長のとつた団交拒否の態度は違法、不当なものであり、しかも局長室に施錠してまでこれを拒否したことを考え合わせると悪質な挑発行為というべきものであつて、本件は、これに対し、被告人がその団交拒否を非難し、団交を要求して他の組合員等とともに局長室に入つた事案に過ぎず、かつ同人が暴力を行使したような証拠はないのであるから、被告人の本件行為はまさに労働組合法(以下労組法と略称する)第一条第二項本文に該当する正当(業務)行為であるのみならず、いわゆる実質的違法性をも欠くものである旨主張し、小畑弁護人および被告人も右(1)および(3)と同趣旨のことを主張する。
そこで以下これらの点について検討を加え、被告人の本件行為の違法性について判断する。
(一) 公労法第四条第三項と憲法第二八条、第九八条、ILO第九八号条約、同第八七号条約との関係および郵政省の団交拒否について
憲法第二八条は勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体行動をする権利を保障することを宣言するので、これにより労働者の団結権、団交権および争議権のいわゆる労働三権が労働条件の決定について労使間の実質的平等を実現し労働者の適正な労働条件を確保するため保障されることは明らかであり、本件で問題となる郵政職員も国より労働の対価として受ける給付によつて生活する者である以上、同条にいう「勤労者」に含まれるものと解せられるので、当面問題となる「郵政職員の団結権」もまた同条によつて保障されているといわなければならない。
そして、同条の団結権の保障は労働者が自由に、かつ自主的に団結することを保障する趣旨にほかならず、この団結権は労働者の生存につながる基本的権利であるから、軽々にこれを制限すべきでないことはもとよりであるが、他面憲法第一二条、第一三条の趣旨にかんがみると、この団結権も労働者を含めた国民全体の利益との調和のうちにその実現をみるべきものであつて、つまりは公共の福祉に反すると認められる場合にはその行使を制限することができるものといわなければならない。
ところで、公労法第四条第三項について考えるに、同条項は「公共企業体等の職員でなければ、その公共企業体等の職員の組合の組合員またはその役員となることができない」と規定しており、職員以外の者の組合加入の自由、役員選出の自由を制限しているのであつて、明らかに憲法第二八条の条項に制約を加えたものである。思うに公労法がかゝる規定をおいた理由は、公共企業体等の特殊な性格にもとづいて、その企業の職員でないものが組合に加入することは、公共企業体および国の経営する企業の正常な運営を最大限に確保することができない事態を生ずる危険があるとの考えによるものであろうが、このように職員以外の者の組合加入の自由を全く否認し、自由に、かつ自主的に組合を結成するという団結権の本質的部分までも制限しなければ公共の福祉に反するということは、公共企業体等事業の社会的機能にみられる特質すなわちその社会性、公益性、独占性を十分考慮においても、その根拠の合理性を肯定することが困難であり、したがつて、公労法第四条第三項は憲法第二八条に反する規定というほかない。
そして右憲法第二八条の保障する労働基本権は、単に国家権力を排除する意味の自由権とは異なり、国家がこれらの権利のために積極的な措置を講ずべき責務を負うていることを規定したものと解せられるのであつて、国家が憲法第二八条によつて直接労使間に具体的な権利義務を設定したものとはいえないが、同法条は団交権等を保障することによつて、国家がそれらの権利の実現に関与し、助力すべき責務を負うているとともに、使用者においてもかゝる権利を否認しないようにすることが憲法の下における公の秩序であることを宣言したものと解するのが相当である。
ところで、前記証人大出俊の供述記載(第一二回公判調書中)によると、郵政省が本件当時全逓との団交を拒否していた理由は、団交は最終的法律効果をもつ労働協約の調印をめざして行われるものであり、その調印は組合代表者となされなければならないが、全逓規約によると全逓の代表権は執行委員長と副執行委員長とにしかなく、その二役員が被解雇者であり、公労法第四条第三項に違反するので組合員および役員にはなれないのであるから、調印者のいない全逓と団交しても意味がなく、また団交を拒否したからといつて不当労働行為にはならないというにあつたことが認められるが、右公労法第四条第三項が憲法第二八条の理念にもとるものである以上、かゝる理由をもつて団交を拒否したことについては、これを疑問とせざるを得ない。
なお松崎弁護人は公労法第四条第三項はILO第九八号条約、同第八七号条約に違反し、ひいては憲法第九八条第二項に違反する旨主張するのでこの点について附言するに、憲法第九八条第二項は、わが国が締結した条約および確立された国際法規の遵守を定めているので、右のような国際法とてい触する国内法が同条項に反することになることはもとよりであるが、労使団体の自由設立および無差別加入権の保障規定をおくILO第八七号条約においては、これがILO総会において採択された国際労働条約であつてわが国はILOに加盟しているといつても、未だ右条約を批准していないのであり、また右条約の内容が確立された国際慣習法を形成しているとまではいゝ難く、さらにまた公労法第四条第三項がすでにわが国の批准したILO第九八号条約にてい触するとまでは断定し難いから、この点についての弁護人の主張は、にわかに容認できない。
(二) 全逓岩手地区本部の組織と本件の団交拒否について
前項の問題を一応別としても、被解雇者が全逓本部役員となつていることを理由として、全逓岩手地区本部に対し公労法第四条第三項を根拠に団交を拒否できるかがその組織との関係で問題となつているので、この点について考えるに、全逓本部と同岩手地区本部との組織上の関係とくに右岩手地区本部が単一組合であるのか、あるいは全逓そのものが単一組合であつて同地区本部はその下部機構にすぎないものであるのかはは、本件証拠上必ずしも明確でないが、前記証人大出俊(第一二回公判調書中)、同久保博(第一三回公判調書中)、同小畑重治(第一三回公判調書中)の各供述記載および全逓岩手地区本部規約一冊(証第三号)の記載によると「少くとも同地区本部は、自ら独自の組合規約を有し、同地区内の組合員によつて構成される議決機関(大会、委員会)や執行機関(執行委員会)を置き、また或程度独立した会計処理をなしていることが認められる。そしてかりに全逓そのものが単一組合であるとしても、そのことから直ちに下部機構たる労働者団体の各々については何等独立した権限がないものとはいうことができず、全逓のような全国的組織をもつ団体にあつては、全国的な要求事項として全組合員に利害関係のある事項ばかりでなく、地域的な要求事項として一定地域内の組合員のみに関係ある事項もあり得ることは当然であり、かゝる地域的事項についてはその地域内の労働者団体は、たとえ全国的に統一された単一組合の下部組織であつたとしても、少くとも前記岩手地区本部のように相当程度独自の活動をなしうる組織体としての実体が認められるものである以上、全国的な組合全体の意思に明らかに反し、あるいは中央本部の統制をみだすような場合でない限りり、他地域の団体や全国的な組合全体から一応独立して団交等をなし得るものと解すべきである。またもしも全逓岩手地区本部が単一組合であるとするならば、被解雇者が全逓本部役員となつていることから直ちに同地区本部に対して団交を拒否することは妥当でないものといわなければならないから、前記単一性の問題についていずれの見解をとるにしろ、全逓岩手地区本部が盛岡郵便局長との間に団交をなしうる場合のあることはこれを認めなければならない。
ところで、本件における組合側の要求事項のなかには、少くとも仙台郵政局管内特有のいわば地方的解決に適すると思われる事項もみられるうえに、前記証人大出俊(第一二回公判調書中)、同久保博(第一三回公判調書中)の各供述記載によると、全逓の場合は、かつて地方本部ごとに団交を行う権限に関して「地方における団体交渉の方式に関する協定」が締結された事実のあること、郵政省が全逓との団交を拒否するに至るまではかゝる地方的団交もさしたる支障なく行われていたことが認められ、またかゝる団交については団交の官側当事者に直接決定権限のない事項であつても一応交渉に応じたうえ上局にこれを上申することにより争議解決のため努力する旨の覚書が取り交わされたこともうかゞえるのであつて、これらの事情を考え合わせると、本件の場合、被解雇者が全逓本部役員となつていることを理由として同岩手地区本部に対し公労法第四条第三項を根拠に団交を拒否したことについては、さきに述べた憲法第二八条との関係を一応別としても、その合理性に疑問を抱かざるを得ず、また盛岡郵便局長が組合からの要求事項が局長の権限外事項に属することをもつて直ちに団交拒否の理由の一つとしたことについても、柔軟性を欠いた措置といわざるを得ない。
(三) 被告人の本件行為の違法性について
(1) まず被告人の本件行為が、労組法第一条第二項本文に定める正当(業務)行為といえるかどうかについて検討するに、公労法第三条に照らすと、公共企業体等の職員の行為についても労組法第一条第二項の適用があることは明らかである。そして、被告人の本件行為は団交そのものとしての行為ではないが、団交を要求することを含む組合活動の一環としての行為というべきものであるから同条項にいう「その他の行為」に該当するものと解せられる。
そこで、右行為が同条第一項に掲げる目的を達成するためにした正当なものといえるかどうかについて考えるに、およそかゝる正当性の有無は、具体的行為の目的および手段の両面にわたり、現行法秩序全体との関連において決すべき問題である。
ところで、本件においては、盛岡郵便局長が全逓岩手地区本部からの団交申入れを拒否した理由については、いずれもにわかにその合理性を首肯し難いこと前記のとおりであつて、同地区本部組合員等が同局々長に対し団交を要求したこと自体は、その目的において不当とすべきものではなく、被告人の本件行為もまた組合と同一目的にもとづくものといつてよいのであるから、局長室へ侵入した行為の目的そのものについては、その正当性を肯定すべきものといわなければならない。
そこでさらに、該行為の手段の正当性が問われなければならないが、本件は、当時団交権の有無ないし団交における組合側の当事者適格の有無をめぐつて全逓と郵政省側とに全く対立した意見の相違があり、この事実を背景として、全逓岩手地区本部組合側が憲法第二八条により保障された団交権を有するとの確信のもとに団交を迫つたのに対し、盛岡郵便局長もまた郵政省側の基本的方針にもとづきこれを強硬に拒否した事案であつて、かゝる場合、双方納得のうえでの団交はとうてい望めず、交渉を求める行為も勢い一方的とならざるを得ないところであるから、団交を求めて集まつた組合員が自然の勢いとして、団交拒否の不当を鳴らし、ある程度強硬に団交を要求したとしても、その行動の手段がやむを得ない程度のものとして評価し得る限度にとどまる限りは、その手段の正当性をも肯認するにやぶさかでない。
しかしながら、被告人の本件行為の態様は窓から局長室に侵入するという常軌を逸したものであつて、たとえそれが団交を要求する組合の団体的行動に派生してなされたものとはいえ、同室は公衆の出入りが自由に許されるところではなく、刑法が第一三〇条の規定をもつて保護しようとする法益もまた憲法第三五条の精神に照らし決して軽視することの許されないものであることを考慮すると、たとえその行為の目的が正当であるとしても、また団交を拒否した郵便局長の措置が相当でなかつたとしても、被告人の右行為は、その手段の不当である点において、もはや正当と認められる限界を逸脱した行為と断ぜざるを得ない。
されば被告人の本件行為は、労組法第一条第二項本文に定める正当(業務)行為とはいえない。
(2) さらに進んで、被告人の本件行為は刑法の定める定型的な違法性阻却事由のいずれにも当らないが、一般に、法規で定める違法性阻却事由に該当しない場合においても、なお、刑法第三五条の趣旨に照らし法秩序全体の精神にもとづいて実質的に違法性の阻却される場合の存し得ることは、極めて例外的ではあるにしろ、これを認めなければならないが、すでに述べた事件発生までのいきさつ、被告人の行為の目的および手段、被告人が本件行為によつて擁護防衛しようとした法益(労働者の生存権)と侵害された法益(建造物内の平穏、不可侵性)との比較衡量、その他本件における具体的情況の一切を全体的に観察してみても、被告人の本件行為は憲法を頂点とする全法的秩序にもとるものといわざるを得ず、したがつていわゆる実質的違法性を欠くものとは認められないから、右主張も採用の限りでない。
なお被告人の有責性に関してではあるが、被告人の本件行為は郵便局長がドアに施錠し強硬に団交を拒否したことを原由として起つたものであるとしても、この場合被告人に対し、他にとるべき穏当な行為を期待することは決して不可能とはいえないから、被告人の行為に期待可能性がなかつたものといえないことも、ここに附記しておく。
以上の次第であるから、被告人の本件行為についてその刑責を免ずべき事由は認められない。
(法令の適用)
被告人の判示所為は刑法第一三〇条、罰金等臨時措置法第二条第一項、第三条第一項第一号に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内において被告人を懲役二月に処し、なお諸般の事情を考慮して刑法第二五条第一項第一号を適用し、本裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項本文によりその全部を被告人に負担させることとする。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 菅家要 永井登志彦 元村和安)